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雪の日の話

五日(月)は二年ぶりの大雪に見舞われたけど、いかがでしたか?横浜の我が家では、鉢植えの夏椿の枝が数センチの雪の重みでポキリ。また物流の遅延で、水曜に届くはずの宅配が一日遅れとなりました。

 

 その雪も溶けた七日(水)、行きつけの美容院に予約の電話を入れたが、何度かけてもコール音が響くだけ。美容院は火曜が定休だから、今日は臨時休業か。でもそうであれば普通、休みを伝える音声テープが流れるのでは? 少々気になったので、買い物帰りに寄ってみると、店は閉まっていて『休業』の札はなし。店内には電話のベルが鳴り響いていて・・・ふと私は不安に駆られました。何かあったのでは?

 

すぐに頭に浮かんだのは、ここの店長とスタッフがスノボにハマっていること。先月にも車で群馬のゲレンデに行き、帰りの高速道路で吹雪に巻かれたとか。思えば昨日は定休日、いい波を待つサーファーのように、いい雪を狙って、再び群馬へ向かったかもしれない。その帰りに吹雪に遭い、帰れなくなって一泊し・・・。主要スタッフが帰らないので、店は開けるに開けられず、中途半端になっていると?

▲雪の湯西川温泉
▲雪の湯西川温泉

「そういえば・・・」とこの時、不意に思い出したことがある。ケイタイがまだ普及していないン十年前の早春、友人の車に四人で乗って、秘境の湯西川温泉に行った時のこと。東京からほぼ三時間余り。急な山道を走行中に吹雪となり、運転のサイトーさんは、雪の中でチェーンをつける羽目に。彼は免許をとって半年めで、チェーンなど初めてだそう。でも汗だくの奮闘のすえ、夕方前には“平家の隠れ里”『本家伴久』にぶじ到着したのでした。雪の露天風呂は美しく、大広間に用意された名物の囲炉裏料理は美味しかった。その広間の舞台に、名物女将の伴玉枝さんが十二単衣で現れ、挨拶なされたのにはド肝を抜かれたっけ。でも、翌日午後の帰り際になって、もっと驚くことが・・・。

 

「お宅さまたち、もしかしてオカザキ名で申し込まれたご一行様で?」と会計の時、フロントの人に訊ねられたのです。そう、実はこの旅は友人オカザキさんの発案で、自身も来るべく、旅館の手配を一切してくれたのに、直前に所用で不参加となった。ただ旅館には、申し込み者のオカザキ名が残っていたらしい。私たちが旅館に着いた時、そうとは知らぬ最年長のサイトーさんが、「サイトーです」と名乗ったら、すぐに宿帖と照合して部屋に通されたので、皆は何の疑問も感じなかったわけ。ところがフロント係の説明によれば、昨夜は客にサイトー・グループが三つもあったため、われわれをその一つと間違えたという。

「えっ、で、それがどうかしたんですか?」と私。

「実は、オカザキ様から何度も問い合わせのお電話があり、四人を乗せた車が行方不明だと。昨夜雪で道を見失い、湖に沈んだのではと。“御一行様”は昨夜、当館に着いてないことになっていたので・・・」

 

若葉マークのサイトー運転を案じていた、オカザキさん。テレビで関東内陸の大雪情報を知り、夕方に旅館に電話を入れたけど、御一行はまだ着いていないと。夜になっても車は未到着。彼は心配の余り、地元警察に電話を入れてみたが、事故の情報は入っていないと。まんじりともせず一夜を明かした翌朝、我々の留守宅やら職場に電話をかけまくり、どこにも帰っていないので、いよいよ警察に届ける寸前だったとか。でもこんな老舗旅館で、何故こんな初歩的なミスが起こったのかと詰め寄ると、前日から“社員旅行”で主力メンバーは全員出かけて、フロントに立っていたのは、それ以外のアルバイトの方々だったとか。

 

さて、一夜明けた今朝(木曜)、例の美容院に電話したところ、すぐに若い女性の声が出た。ぶじ予約をとった後「昨日は、何かあったの?」と何げに問うてみると、明るく弾む声が返ってきてまたまた驚いた。「はい、うちの社員旅行だったんです」

 

▲湯西川温泉かまくら祭 

提供/日光市観光協会


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コメント: 1
  • #1

    濵野 智 (金曜日, 23 2月 2024 17:18)

    ミステリー作家の日常は何かにつけてミステリアスなようですね。雪の温泉地行きは、作品の題材になりそうな。
    一読させていただきたいものです。