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正月早々さんざんの、諸行無常の記

 

え、そんなはずはないと思いつつ、嫌な予感がムクムクと・・・。正月二日の午後一時。都心にそびえるタワマンの前に私はいました。

「おせちを食べに来ませんか」とこの上階に住む、夫婦共通の友人に招かれ、夫婦で横浜から東急線で東京へ。友人はプロなみに料理上手の独身男性で、毎年新年会に招いてくれます。今年もそのマンションの入り口に立ち、心楽しくオートロック解錠のボタンを押したのでした。

でもいつもはハイと出る部屋主が、出ない。手帳で番号を確かめ、何度押しても結果は同じ。たまたま入って行く人の後についてロビーに入れたけど、コンシェルジュ(フロント係)は正月休み。住人が中でボタンを押さない限り、エレベータにも乗れません。

 

日を間違えたか? と青ざめるうち警備員に咎められ、慌ててスマホで呼んでみた。すると、やがて「はい」と出た低い声は、事情を聞くまでもなく重病人の声です。息も絶えだえに言うには、夜中に突然、原因不明の嘔吐と下痢に見舞われ、朝になっても立ち上がるのもつらいと。で、「今日の新年会は中止」と、メールに入れておいたというのです。そ、そんな・・・。私はいつも仕事を始める時間まで、パソコンは開かない。特にこの日は外出なので早起きし、お雑煮は食べたけど、何やかや準備に忙しく、メールチェックなんて思い浮かばなかった・・・。

 

ただ、万が一のドタキャンがあれば電話が来ると思っていたのです。一言、電話をくれたら、と言いたかったけど、相手は重病人。電話口でのゴタゴタはひかえ、ともかくエレベータのボタンを押してもらい、二十数階の部屋の玄関口で、土産の私の“特製黒豆”を渡して退散しました。

 

「外出前にメールチェックしなかったあんたが悪い」と夫にさんざん責められ、帰りは夫婦険悪ムード。ご相伴に預かるはずのご馳走の山は夢と消え、渡さないで持ち帰ったワインやお菓子がやたら重い。正月の空はよく晴れ長閑だけど、さんざんな午後でした。

 

もちろん私がうっかりしていたのは、弁解の余地なしだけど。でもメールには、送る側も受け取る側も“タイミングよく見るかどうか分からない”という不安がつきまとうもの。特に私のような粗忽者は、やはり電話で直接伝えてほしい。それが不可能なら、メール+後の確認電話、という手もあるのでは。とはいえ・・・。今度のように夜中に緊急事態に襲われ、朝になっても瀕死の状態だったら、電話するのもしんどいですよね。私も昔、牡蠣に当たって、朝まで便器を抱え吐き続けたことがあるし。そんな一夜を過ごしたら、誰しも電話どころかメッセージを送って、布団被って寝込んじゃうかも。そう考えると、仕方なかったかと。今はもう、許しちゃおうって気になってます。ただ、あれからどうなったやら。一刻も早い回復を祈るばかりです。


家に帰って着替えを済ませ、コーヒーを淹れ、テレビをつけると、どの局も、元旦の能登半島地震でいっぱい。そしてこの二日の夕方、なおも呆然とテレビに見入っていると速報が! 「羽田空港で日航機と海保機が衝突し、炎上」と。何とまあざわつく、諸行無常の年の初めでしょう。

 

“諸行無常”とは「この世は絶えず変化していくもの、他人に起こった変化は他人事ではないと自覚せよ」という教えと聞いたことがあります。そんな思いで、この地震で被災され方々にお見舞い申し上げます