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落花生を巡るちょっとミステリアスな話

 

ぐずぐずしてるうちはや四月。今年は桜も早く、あっという間に咲いてもう散りかけてますが、私のリハビリはもう少しかかりそう。そんな三月半ばのある朝、千葉から突然、宅配便が届きました。贈り人は友人Sさん。送り状には“ピーナッツ”と記されていたので、アレレッ----と思わず叫んだ私です。というのもその前夜、近くのスーパーで、買おうとした“素焼きピーナッツ”の袋の値札が不正確だとかで、レジの店員さんが、何やら調べ始めた。でも後ろに並んでいる大勢のお客さんの強い視線が感じられ、私はつい「明日また来ますから」とその袋を返したのでした。


そもそもその時ピーナッツを買う気になったのは、その三日前に同じスーパーで、一袋千三百円もする千葉産“落花生”が、何と半額で出ていたから。大好物なのでまずは一袋をゲット。二袋にしなかったのは、このシビアな店が、なぜ急に半額にしたのか怪しんだため。でも食べてみるとめちゃウマで、二日でなくなっちゃった。で、再び行ったら売り切れで、やむなく別の“素焼きピーナッツ”に手を伸ばしたわけ。

 

 

買えなくてがっかりした翌朝、遠方からピーナッツが届いた偶然に、ふと思いました。落花生って割と謎めいた食べ物じゃないかしら、と。いつも身近にあり珍しくもない顔をしてるけど、よく知らないことが多い。例えば“落花生”とは殻付きで、剥いたのが“ピーナッツ”、薄皮付きピーナッツが“南京豆”なんて-----。また千葉をよく車で走ったけど、日本一の産地にしては、実の生った落花生畑を見たことない。名産地“やちまた”は有名だけど、“八街”という漢字は読めないとか。


▲落花生の花 ▼落花生畑

それはともかく。贈られてきたのは千葉名産の落花生と漬物でした。その中に、本場八街名産“極細バターピーナッツ”というのがあって、首を傾げた。私、千葉のピーナッツには馴染んでる方だけど、極細のバターピーナッツなんて初めて。見た目にもその実は痩せて細く、確かに極細品。何かいわれがあるのだろうと思いつつも、“茹で落花生”から試食し、バタピーは後回しに。そのうち贈り人からメールが届きました。「千葉の落花生はいろいろなものがありますが、極細バターピーナッツは成田でしか手に入らないもので、云々-----」

 

え、成田でしか手に入らない? 慌てて調べてみると、それは八街産落花生を選別する時に、規格外の極細を集めて、その締まった実をカリっと仕上げたもの。でも量が少なくて多くは出回らないため、“幻”と言われ、成田山に詣でる参道の豆屋さんにのみ、売られているのだそうです。恐縮しきりの私、さっそくワインの友にして食べてみると、「うまっ!」。カリカリと歯触りがよく、バターくささもなく、食べ進むうち病みつきになりそう。千葉にはこんな優れ物があったんだと、目からウロコが-----。この友人は、さすが千葉で生まれ育った土地っ子。凡百の“外者”では窺い知れぬ秘密(?)のポイントを、よく心得ていたのでした。


成田山名物というのがまた、由緒ありげですね。成田山新勝寺といえば、節分の時はいつも豆をまく、成田屋“市川團十郎”が有名です。市川家は江戸初期から新勝寺と縁が深く、数々の逸話を残していて、成田ピーナッツをカリカリ食べてると、そんな歴史が思い浮かぶよう。去年は十三代目が襲名したばかりです。どうでもいいけど團十郎のまく豆は落花生か?と調べてみると、大豆と落花生の割合はほぼ二対一とか。

 

そうそう、落花生が畑で見られないのは、花が咲くと地面に落ち、その茎が地中に伸びて実をつけるからですと。文字通り“花が落ちて実が生る”というわけ。ふう、やっぱり落花生は根が深いです。