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痛いお正月

 

年の瀬も押し迫った30日、羽毛布団がやって来た。もちろんタダじゃなく、高島屋に十万円も払い込んでのこと。14万円がこの値段になったのだから、まあまあかと。でも夜具については私、昔から大の“綿ふとん派”。親戚に布団屋がいて、電話一本で打ち直しを頼め、身体に馴染むその柔らかさ暖かさ、そして少々の重さが、大の眠りの友でした。ところが昨年暮れ、冬布団のあまりの重さに泣かされたのです。


私の右腕が書痙の如く痛み出したのは、去年9月の締切を終えてから。それが左腕にも移ったから、両方の二の腕が激しく痛む。行きつけの整骨院によれば、パソコンの打ち過ぎによる筋肉疲労だから、マッサージをしばらく続けなさい、と。でも二ヶ月たっても治らない。これでは駄目だと思ったのが師走初め。整形外科に行き、レントゲンを撮って貰ったら、パソコンを覗き込む形でねこ背になっていると。骨が湾曲し、腕と肩の筋肉がどうかなっちゃったらしい。スマホ・パソコンを覗き込むようなこの姿勢は、いま現代人を襲う病の根源なんだそう----。

 

といえば恐ろしいけど、たかがねこ背。子供の頃から耳にしたそんなありふれた事が、今さら何故こんなひどい現象を生むのだろう。誰もが、もっと自然にねこ背だったと思うけど、私の痛みは激しく、痛み止めはあまり効かず、年末で忙しいのに腕に力が入らない、入れると痛い。万物これ、重力で存在しているのだと、当り前のことがビシバシ体に響きます。思えば私のパソコン歴、もうかれこれ四十年近くになるんです。長年無造作に使ってきたツケが、いよいよ回って来たのでしょうか。


 

こんな時、使い慣れた“綿ふとん”が、痛む身体に妙にズシリと重くのしかかって来たのでした。ベッドから起き上がる時、普通なら自然に腕で布団をはねのけるけど、腕が痛くなってから、布団が重くてそれができない。そこで足で蹴って、その勢いで起き上がらなくちゃ。布団が古くなった---と思うと、ご無沙汰していた小西布団店が久しぶりに頭に浮かんだ。神奈川宿の旧東海道に面した老舗で、昔は大いに栄えたと聞きます。だけど化繊の布団が手軽にスーパーで買えるようになり、古くなったら使い捨ての時代に、ついて行けなかったようで。店は縮小し、代替わりもして、私たちもいつの間にか疎遠になりました。そんなある夜中、布団を蹴って起き上がったら、勢い余ってよろめき進み、向かいの壁に頭をぶつけた。とうとう私は決めました。これまで何度か頭をよぎった羽毛布団に変えようと。

 

布団が届いた夜、あまりの軽さ暖かさが嬉しく、くるまってぐっすり眠りました。どこかで鳥の羽ばたきや囁きが聞こえたようでした。ところが気分が変わったのは二日目から。布団が軽すぎる。周囲の闇を、重力で肩の周りにそっと圧し付けて来たあの布団の安らぎは、どこ行ったの。浮き上がろうとする自分がそっと海の底へ圧された時から、眠りは始まるのではないかしら。不安が湧き上がり、頭が冴え、わけもない悪い予感で眠れなくなり、この1週間で2回、睡眠薬を使いましたっけ。やはり私は“綿ふとん”派。とはいえ羽毛布団の軽さは例えようもなく有難く、何とか折り合っていかなくちゃ。


 

ということで、遅くなりました。新年おめでとうございます。

今は抱負なんか何もなく、効果的なリハビリしか考えられません。痛みから解放されたい一心の、痛いお正月。スマホ病、パソコン病、皆さん気をつけてね。

今年もどうぞよろしくお願い致します。