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十一月は、魅惑のライブハウスへ

 

秋も深まるこの11月、毛色の変わったライブを二つ堪能しました。この3年間、コロナ自粛でライブが少なく、体調不良も重なって夜の外出はもっぱら飲食ばかり。これじゃ酸素不足だと痛感していた矢先、自粛も解禁となったし、魅力的なライブの案内が舞い込んだ! さっそく外出前のドタバタのあげく、家を飛び出した私でした。

 

まずは3日文化の日の夜、横浜は野毛のジャズスポット『ドルフィー』へ。この夜はトリオで、ピアノ田中信正、ベース坂井紅介のベテランと、“永遠の金髪の美青年”ヒサシ。彼は年齢不詳だけど、未だにボーイソプラノの美声を残し、強烈な個性でこのジャズ界の荒波を乗り切って来た、異種のボーカリストです。ピアノとベースの凄さに煽られつつ、大都会に漂うシティボーイの虚無を唄う時。両者の挑発に乗って悪童ぶって暴れまくる時。独特のポエムが滲んで、とても面白い。

 

そこにヒサシの独特の魅力、ある種の”怪物性” があって、この夜も見知らぬ異界へと私を運んでくれました。その帰りの祝日の夜ふけ、閑散として明かりだけが灯った野毛の街を抜けて行くのも、ジャズの続きみたいで、いい感じでした。

日々、身に降りかかるあれこれの難題の中であがいている私。たまにこんなジャズに触れると、ま、そのうち何とかなるさ-----というポッカリした気分になって、何がなしホッとします。

▼YouTube ジャズシンガーHISASHI『LIVE et Live』

▲ピアノ/田中信正 ▼ベース/坂井紅介


20日には、横須賀線から房総線へ乗り継いで、『千葉生涯学習センター』2Fホールでの『潮見佳世乃 歌物語』へ。横浜から千葉へは遠いなあと思いつつ踏み入ったのは、さらに遥かなる『遠野物語』の世界。

潮見さんはジャズ歌手でシンガーソングライターですが、一方で吟遊詩人の父・高岡良樹氏の遺した“歌物語”を受け継ぎ、“歌と語り”の世界を深めつつあって、『遠野物語』はその原点と言えるでしょう。

 

遠野は遠く、語られる世界はファンタジー。でもそこには脈々と、大昔から遠野に生きた人々の魂が息づいている。それはちょっとグロテスクで、少々怖い。そんな感覚に満ちた遠野物語の世界に導いていくべく、語り部は東北弁で語り継いでいく。潮見さんは千葉の人だから、その辺の語りは勉強なさったでしょう。

「私は函館育ちだから、東北弁にはうるさいよ」と先日会った時、馬鹿な冗談を言って脅かしたけど、思えばあまり達者過ぎるより、潮見さんの耳に残った口調こそベストですよね。そんな意味で、素敵な案内役だったと思います。

 

率いるバンドも、ピアノ、ギター、尺八、箏-----と多彩で、ただの民話語りではない、豊かな精神世界を歌っていて、楽しいひと時を過ごしました。ただ、以前はホラー小説ばかり書いていた怪談好きの私。今後のため、一つだけ注文してもいいと言われたら、もっと“怖い”バージョンも、いつか聞いてみたいなって思う。

 

そしてこの夜は、TVでカタールでのサッカー開会式。テーマ曲“Dreamers”を歌い踊った BTSのジョングクさん、カッコ良かった!グループで見るより、ソロの方がグッときますね。でも、それはそれ。この日に聞いた歌物語コンサートや横浜でのジャズの、ライブ感覚や手作り感を、こよなく愛している私です。