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月光に、行く夏を惜しむ


 

    冷房で閉め切っている窓に、秋祭りの太鼓の音が-----。

 ああ、もうそんな季節なんですねえ。窓の外を見ると、眼下の工事現場のクレーンの上に、赤い月が上りかけています。満月です。

 思わず見とれるうち、月はだんだん高く、その色は薄黄色に変っていく。はるかに続くビル群と家々の屋根-----という変哲もない風景の中で、お月様だけがダントツの凄みです。

 

 どこにも出かけないまま、終わろうとしている夏。

 予定していた小旅行は、台風で取り止めたし、友人との呑み会も涼しくなったら-----と延期。結局は、恵比寿で古い映画『暗殺のオペラ』、東銀座で歌舞伎『盟三五大切』、渋谷でリバイバルのミュージカル『コーラスライン』を観たくらい。その熱気溢れる舞台も、三階席で観たため、そそり立つアルプススタンドから見るようで、いささか遠かった。

 

 八月七日は、妹の十三回忌でお墓参り。立秋の日とはいえ、墓地は木一本ないのに蝉時雨の炎暑地獄、「ムリしないでいいって」と笑う妹の声を聞いたような気がして、花を手向けて早々に退散でした。

 妹は五十代前半で、入退院を一年くり返して召されたけど、それからの十年は、本当に医学が進歩した感ありです。この二年で、四人の友人知人が重篤の病いで入院し、全員がぶじ復帰したのだから。

 あのミュージカルに誘ってくれた友人も、四ヶ月に及ぶ入院から生還。若い頃、N Yで観て感動した『コーラスライン』を今一度-----と早くからチケットを取っていたんです。遅ればせの私と違い、ちゃんと一階 S席に陣取って、生きるパワーをたっぷり頂いたようでした。

 

 いつの間にか月が高く昇り、白い月光を地上に降り注いでいます。

 その冴え冴えとした満月は、満ちては欠け、死と再生を繰り返す中でも、最も“気”が満ちている時。思わず祈りたくなりました。

 これから闘病する人、ただ今入院中の人たちに幸あれ!