35°越えの猛暑日が今日で５日め！ 春のうちに、老朽化した懸案のエアコンを三台、エイヤッとばかり付け換えておいて命拾いした感じ。でも二十三年働いてもなお壊れず、まだ動いていた老エアコン「霧ヶ峰」。捨てる時は思わず、敬礼したくなりましたよ。
ジージーと油ゼミの鳴くこの午後、私は日傘やアームウオーマーで防備を固め、燃えるような炎天下へ。この前日、料理上手の友人K氏からメールあり、「お惣菜を渡したいから、明日、いつもの所へ来られるか？」。彼は時々（月１回くらい？）狂ったように料理を作り、親しい友人数人に分けてくれる奇特な人なのです。受け渡し場所は私の場合、近くの駅のプラットホームのベンチ。おさんどんにも、テイクアウトのお惣菜にも飽き果てた私は、やれ嬉し、持つべきは友----とばかり、二つ返事で応じたわけでした。
この日のメニューは、茄子の揚げ煮、鶏の砂肝といんげんの生姜煮、ミョウガの味噌炒め、バターナッツとカボチャのフラン、豆乳を使ったソーメンのタレ＿＿。どれも、普段あまり作らない料理ばかり。どれもアジアンテイストで、ひんやり冷やして食べて美味。そんな夏らしい逸品の中で、濃いめに煮た「鶏の砂肝」の独特の風味が、遠い少女時代の食卓に、久びさに誘ってくれました。
私の父は“子どもより酒が好き”に見える呑んべえで、“男子厨房に入らず”の時代、酒の肴を作るため、よく厨房に立っていたのです。湯豆腐やとろろ芋もあったけど、誰に食べさすでもないから、よく作ったのが好みの臓物。その筆頭が鶏の砂肝と、鶏のモツ煮で、俗に“ちょうちん”と言われるやつ。まだ卵になっていない黄身が、卵管（？）に四つ五つ提灯のように連なっている様は、子どもにはグロテスクでした。でもぶつ切りの生姜で臭みを抜き、こっくりと濃く煮付けられた甘辛味は、母の料理にはない味。まだ子どもの舌にも、どこか異世界を思わせ輝いていました。「さあ、食いたければ食え」と、取り立てて感想を要求しない父に、私は何と応じたんだったか。ただ“男の料理”と聞くと、いつもあれが浮かびます。
昔、“男の料理”が流行りだしたころ、ある男優がTVで「さあ、どうだ」とばかり、見事な得意料理を披露したことがありました。すると司会が、女性ゲストに「どうです、男の料理に対して女の料理は？」と。でも誰も答えられなかった。私に言わせれば、ジャンルが違うんですよね。女は、特に主婦であれば、栄養面や、冷蔵庫の残り物や、家族の好き嫌いを念頭に、メニューを組み立てるんですから。女の作る日々の料理は、別の意味で大変なんです。
今や男の料理は普通で、もはやジェンダーフリーです。でも-----。
K氏の大胆なアジアンテイストの “お惣菜”を食べていて、ふと思いました。懐かしい“おふくろの味”があるように、懐かしい“男の料理”もあるんじゃないかと。それはたぶん、誰にも媚びず自分の舌と好みを頼りに突き進み、「好きに作ってどこが悪い」と開き直って守られていく料理に違いないと。
さて日が落ちると、こんな猛暑日でも、虫のすだく声が天地に満ちてきます。夏ももう断末魔、もうちょっと頑張りましょう。
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京 (木曜日, 02 9月 2021 08:14)
いつもブログが更新されるのを楽しみにしております。
「今は懐かし 男の料理」を拝読し、父のことを思い出しました。私の父も食べること、飲むことが大好きで、今でこそ男性がスーパーで買い物をする姿を見るのは珍しくもない光景ですが、一昔前は男性が買い物？と思われる時代に、地元の市場に母と出向き、旬の前の走りの物をあれ、これ、と指差し、母に買わせていました。そんな父の手料理は、ホッケのすり身汁とすいとん、それと本人曰くお好み焼きですが、今でいうチヂミを作ってくれました。特に、父の作るホッケのすり身は男性ならではの力加減が絶妙で歯ごたえが良く、楽しみな一品でした。他界して長い時間が経ちましたが、季節が変わって食べ物が変わるたびに父のことを思い出します。今回も、先生のブログで父の面影が浮かびました。ありがとうございました。
森 真沙子 (火曜日, 07 9月 2021 13:25)
京さんへ お便り嬉しく拝見致しました。同じように父親の手料理を、記憶深く刻んでおられる方がいたのですね。自分には当たり前で、人に語ることでもないと思ってたのに、ふと書いたら、読んで下さった方の心に届いたのは嬉しい。また”ホッケのすり身” は懐かしい。うちでは母が作ったけど、家を離れてからはとんと食べることもなく、お便りを拝見して不意に舌先に甦りました。これはソウルフードですね。今度そんなことも書いてみたいです。こちらこそ有難う！