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おでんでドンペリ

 

いつ入手したか、その存在さえ忘れていたドンペリが、自宅で眠っているのを発見!なんて事があるんですね。

大掃除で、本棚下のワイン置き場を整理していたら-----いえ、整理するほどワインはないけど、もう呑まなくなったウイスキーの箱が多少あって----。それに並んで、正体不明の箱が押し込まれているのを見つけ、不審に思い、引っ張り出したわけでした。

 

「ドン・ペリニョン  1985 ヴィンテージ」と箱に書かれていてびっくり。三十四年前の製造? はて一体いつ、どうやって手に入れたのか。たぶん何かのドサクサで頂き、恐れ多くて、いつか賓客の時にと、大事にしまい込むあまり、忘れてしまったのでしょう。

ネットで調べると、1985年は大変なワインの当たり年らしい。入手時は不明だけど、2530年はここで眠っていたのでは----

 

ちょうどクリスマス明け、我が家で忘年会があるので、そこで空けてみることに。でも酢になっていないかどうか、メニューの主菜のおでんに合うかどうか、期待と不安でいっぱい。しかし内田百閒は『ご馳走帖』に、シャンパンにはおからが合うと「おからでシャンパン」なる名句を残しています。「おでんにドンペリ」も、そんな“名句”になる? 


 

かくてシュポッと栓は抜いたけど、何の毒があるやもしれない。

で、私がまず試飲してみたら、こっくりしてやや甘く、どちらかといえばヘビーな味わい。ただ炭酸のシュッという感じはなく、上等な白ワインに近い。果たしてこれが、真のドンペリの味か? お客四人(出版関係者二人、美人ソプラノ歌手、板前免許取得者)に呑んで貰ったけど、皆、首を傾げて黙ったまま。私を含め、皆、ドンペリを呑んだことがなく、このテイストがいいのかどうか、誰も判断出来なかったのでした。

 

でも鍋で煮えてるのは、日本橋であつらえた老舗『神茂(かんも)』のおでん。元禄以来の江戸前のダシは、すっきりとした辛め。白ワイン系のドンペリとは合う、と私は判定したのだけど----ちなみに百間のおからは、すり鉢ですってクリーミーにし、銀杏を上に乗せ、その上からレモンを絞ったものらしい。  

ところで、小中高と学校が一緒だった石塚茂さんが、この夏に他界。同期会内に「生存確認会」を作り、いつも皆を笑わせていたけど、亡くなる前に「我が魂の料理」なる遺稿を同期の仲間に託した。

我が魂の-----つまり彼のソウルフードは、「イカ刺身」「冬にお母さんが作った、魚のすり身団子の吸い物」「舌が火傷しそうに熱々の、函館塩ラーメン」等です。同郷の函館人は、胸に沁みますね。

ちなみに、「ドンペリと神茂おでんの会」のメンバーに、「地球が最後の時、何が食べたい?」と問うと、おじさん達の一人はプリン、一人はコロッケですと。

私? ええ、私ももちろん、“死んでないイカ”の刺身です。

そして百閒は、死の間際、好きなシャンペンを呑んだそうです。

 

さて、皆様のソウルフードは何でしょうか?

今年もあと二日。無駄に忙しいばかりで、ろくに遊ばなかった私、来年はもっと余裕を持ちたいものです。

 

皆様も、どうぞお元気で、良いお年を!