· 

カガミさんの御茶

ネット見てたら、「文大統領がオウンゴール」とありました。

オウンゴールはサッカーなどで使われるスポーツ用語で、複雑な状況を一語で言えちゃう重宝な言葉。つまりこの場合、大統領が敵ゴールに蹴ったつもりのボールを、結果的に、味方に蹴り込んでしまい失点となった----という具合に読みとれるわけ。

 

この時思ったのは、そんな便利な言葉ってけっこう身近にあるし、自分たちで勝手に造語して使ってるってこと。周囲だけしか通じない言葉。ややこしい説明なしに、ピタッとはまるギャグ。そういうものが、誰しも二つ三つあるでしょう。私も幾つかありますが、中で「カガミさんのお茶」をご披露したいです。

 

十数年前のこと、私はカガミさんという年上の友人をランチに招きました。といっても手作りのサンドイッチと、サラダ、ポタージュ、ちょっとしたお菜、紅茶-----程度のもの。

喜んで来てくれたカガミさん、ソファに座るや、悪いけどホッチキス貸して、と仰った。何をするかと思いきや、すでに開封して半分ほどに減ったお茶の袋を取り出し、クンクン-----と匂いを嗅ぎ、大丈夫などと呟いて、ホッチキスでパチンパチンと止め、「はい、これ、お土産」とにこにこして差し出したのです。何の説明もないし、何これ----とも訊けず、正直、戸惑いました。 


ちなみに彼女は、某有名TV局のエライさんの奥さん。実家は医者で、夫君の実家はお手伝いさんのいる旧家。でも当人は地味で、ちょっとヘンな人で、おかげで私とは気が合っていたのです。喘息を長く患って臥せりがちで、子どもは持たずでした。

 

開封茶は飲む気になれず、食器棚に押し込んだまま-----。

ところがその二週間ほど後、お茶を切らしてしまい、そういえばアレがあった----と思い出し、しぶしぶ淹れたのでした。

その御茶の、美味しかったこと!その香りと、とろりとした深い味わいは、ワッと思うほど。グラム千円程度のお茶に馴れた私の舌には、グラム“五千円”くらいに感じられたっけ。

 

後になってそのことを本人に話すと、「あ、そうそう、あれは美味しかったからお土産にしたの」と何げにあっさり。----なら、そう言ってくれたら良かったのに!

 

 


でも、それを言わないシャイな人柄です。私なら、いかに美味しいかカネ太鼓で並べたて、リボンで飾って渡すところ。自分の“小人物”ぶりを、見せつけられる出来事でした。他にもそんな逸話が幾つもあり、何年かして亡くなった時は、そのピュアな人柄が偲ばれて涙が止まらなかった__。 

 

でもわが家には「カガミさんの御茶」という言葉が定着しました。「それ、カガミさんの御茶だね」と言えば、状況に応じて何かがパッと通じます。意味は「お高いものを、それと感じさせずに無造作に出すこと」。又は「それに気づかない小人物のこと」。

 

 

皆さんはいかがですか。何かあったら、ホームページにご投稿ください! 

もうすぐ十月。やっと風が涼しくなりましたね