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ワンス・アポン・ア・タイム・イン・柳橋

 

今、劇場公開中の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、監督クエンティン・タランティーノ、主人公はレオナルド・ディカプリオとブラッド・ピット----。

ちょっとワクワクします。特にタラ監督のファンじゃないけど、あまりに小じんまりした映画が多い昨今、必ずこちらを裏切ってくれるハチャメチャぶりが面白くて。ミーハーのせいか9作中、5作観ていて、今回も残暑にめげず川崎まで行って来ました。

 

3時間近い大作で、映画の中で別の映画を見せたり、時系列をずらすなど、目くらましが次々と仕掛けられますが、最後まで愉しめたのは、主人公の好演のおかげでしょうか。

動のディカプリオに対し静のブラピは、表と裏、光と影?

また、ディカプリオ演じる落ち目の俳優の家と、ポランスキー監督宅が隣り同士という設定から、シャロン・テート事件(ポ監督の妻で、この‘69年8月にヒッピーに惨殺さる)が最後の山になりそうで、結末までドキドキさせられたのです。

 

ネタバレになるので結末は省くけど、ポ監督宅の広大な庭の、何と真っ暗な佇まい!その闇をわざわざ俯瞰で撮っているため、これだけでは終わらんぞ、という恐怖の余韻を感じた私ですが----。

「名所江戸百景 鮫洲」歌川広重 安政3年(1856)~安政5年(1858)

国立国会図書館デジタル化資料

海岸に見える小さな木のようなものは、柵と言われる海苔養殖場             

 

さて私の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン----』は『柳橋ものがたり』。八月末に三巻「渡りきれぬ橋」が出ましたのでよろしく。一巻はおかげ様で重版したけど、こちらはどうなることか。

 

先日こんなメールを、読者の方から頂きました。

「現在の柳橋は、在りし日の面影など跡形もない町になっています。町のリアルな描写や、物語はどうやって作るのですか」

うーん、たしかに今の柳橋には、昔を偲ぶ手掛かりは皆無です。それを“むかしむかし柳橋で-----”と、見て来た如くしゃあしゃあと書けば、その“描写”は大ウソに決まってる。でも、道ゆく人は、道端の野草は、川の匂いは----など、あれこれ手探りするのが愉しいうちは、これ(大ウソ)で行こうと思います。

 

また物語のヒントは、身近に転がってることがある(たまにだけど)。第3話「夕映えの記」が出来たのは、駅のスーパーで買う“お握り”のおかげでした。これが美味しく、その包装紙に書かれた「江戸大森、四代目新蔵、謹製海苔使用、御結び」も謎めいて----。

でもそれで終わるはずが、ある時たまたま、或る人の講演で「昔、品川は江戸一番の海苔の産地だった」という何げな言葉を耳にした。大森と品川は隣り町だし、ふとあのお握りがスパークしたのです。

 

興味が沸いて調べてみたら、浅草海苔は、江戸中期には品川大森で養殖されており、“献上海苔”の特権水域でした。特権を巡って界隈の争いは、一揆も起こるほど壮絶だったらしい。「四代目新蔵」は、“海苔戦争”をサバイバルしてきた御用達商人だったんですね。

さっそく大森の「海苔博物館」へ。付け焼き刃の大勉強で、急に海苔ワールドが浮かび、男女の悲恋物語が生まれたという次第です。

 

それにしても昨夜の台風十五号、怖かったですねえ。

雨が横から“打ちつける”音はしても、天から“降る”音はしないのです。雨音が聞こえるようになった朝方、やっと眠れました。


▲「柳橋ものがたり③ 渡りきれぬ橋 第三話 夕映えの記」は主人公・綾が夕焼けの海を眺めるシーンで幕が閉じる。ぜひご購読ください。