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狐雨の夜

外出の仕度をしていると、ザザザザ----と激しい雨の音。この日の関東地方の予報は「天気豹変の恐れあり、所により雷雨、局所的に豪雨」です。いよいよかと“防護服”に身を固めて家を出たら、もう雲間から夕日が射す中に、パラパラと雨が-----。そんな狐雨の夕方、納涼の呑み会のために横浜野毛へ。

 

選んだ店は、いま話題の中華ビストロ『八寸』。中華街の『状元樓』が手がけるだけに、中華料理をベースにした和食風やフレンチ風が、面白く美味しい。気楽で、おしゃれで、リーズナブル。ウエイターは、色の浅黒い南米系(?)のイケメンでした。

 

同行三人のうち一人が長野出身だったので、どうでもいいけど気になることを訊いてみた。「信州と信濃はどう違うの」と。歴史本を見てると、信州小諸より、信濃国小諸と書かれる方が多いみたい(?)で、何かが違うように思ったのです。でも答は「信濃の信の字をとって信州なのだから、両者は同じ」ですと。

 

▲木曽・妻籠宿

▲信州浅間山

そう、薩摩を薩州というのと同じね。とすぐ理解したものの、やはりどうも信濃と信州は含むエリアが違うような気が-----。信州木曽を、信濃木曽と言うかな、と話はもつれたけど、ま、この風雲の時代どうでもいいことと、メニューを見て甲州ワインを注文。

すると「甲州ワイン? 信州でなくて-----?」とイケメン。この当意即妙のギャグに、皆大笑い。耳がいいし、日本語も達者。忙しく立ち働きながら、ちゃんと聞き耳を立てていたのね。


後でネットで検索したら、すでに信州と“長野”の違いを詳しく調べている人がいて、脱帽! それによれば信州には、佐久、諏訪、小諸、伊那、松本、筑摩-----と多くの藩や町があったけど、廃藩置県でかなり区分変動があったとか。それは複雑でとても書けないけど、信州、信濃、長野は、現実に例えば、信州でありながら長野に入れなかったエリアには、今も何がしかの怨念が潜んでいる----とは怪談好きの私の妄想です。

 

さて一杯機嫌で野毛小路に出て、人の多さにびっくり。ウイークデイに、若い人ばかり。東横線の桜木町駅が無くなってから、野毛はさびれ果てたはずだったのに! 昔の野毛は、店に収まらず外に張り出して呑む、日比谷のガード下めいたオジサンの町でした。もっとも今も、そこここに若者の長蛇の列が。見るとモツ焼きの店で、その匂いが立ち込め、ハマらしい空気を醸しているのです。 

昔、よく通ったジャズ喫茶『千草』は潰れたけど、ライブハウス『ドルフィ』は健在なり。最後にジビエの店『ジィーロ』で一杯飲み、大岡川に沿って馬車道へ。今にも降りそうで降らない夜でした。

思えば、野毛界隈をうろついていた頃から、もう半世紀近くたっているなんて。何だか狐に化かされたような気分です。

 

 

もう八月も半ばを過ぎ、蝉も夜は鳴かなくなりました。