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キレッキレ!

 

「小出奉行ってキレッキレなんだよね」

最近、ネットで見かけた「箱館奉行所シリーズ」のレビューを読んでいて、そんな一文が目に飛び込んできました。「あ、なるほど」と、私、“目からウロコ”の思いでした。“キレッキレ”って、ダンス、スポーツ、突っ込み漫才なんかのキレの良さを評する、平成の半ば頃からの流行語ですよね。

 

 でも箱館奉行の小出大和守をそう形容するなど、思いも及ばず、新鮮でした。“切れ味鋭く、冷徹で-----”とくどく言葉を重ねるより、“キレッキレ”の一言で、イメージわし掴みですからね。そういえば奉行所シリーズを書き終えてから、小出奉行の“キレッキレ”ぶりを、改めて印象づけられたことがあったっけ。そう、吉村昭の『黒船』を読んだ時のことでした。主人公堀達之助は、サスケハナ号でペリーと交渉したオランダ語通詞であり、「英和辞書」を日本で初めて編纂した人。この当代一の語学の達人が、英語通詞として、箱館奉行所にやってきたのです。

 


かねてから小出は通詞を重視し、優秀な人材を江戸から招いていたのですが、開国に伴って次々と中央に呼び戻されてしまい、国際都市箱館の面目も丸つぶれ。それを口惜しがっていた折も折です。我が意を得た小出は、折から起こった英国領事がらみの「アイヌの墓暴き事件」の談判の場に、この通詞を率いて望みます。

 

ところが堀は、英國領事ワイスがまくし立てるコックニー(ロンドンの下町訛り)を聞き取れない。後ろ暗いワイスは、ことさらの巻き舌・早口で、通訳を煙に巻いたふしもあったのです----。堀もすでに四十三、すれっからし英国人との激しい応酬について行けず、何度も訊き返し、つかえ、どもったらしい。

小出大和守(函館市立中央図書館蔵)
小出大和守(函館市立中央図書館蔵)
小出大和守の補佐役を務めていた石河駿河守
小出大和守の補佐役を務めていた石河駿河守

堀達之助は、ペリー来航の際通訳を務め、日本で最初の英和辞典「英和対訳袖珍(しゅうちん)辞書」を編さん。また、「函館文庫」を創設した。

一部始終を見てとった小出は、十一歳上の掘を迷わず降ろし、次回には若い駆け出しの通詞に差し替えてしまう。堀の屈辱は深かったでしょうが、小出にとっても勝負どころの一大談判です。

すぐ中央にこう書き送りました。「達之助儀、語学は一流だが、通弁はヘタで、入り組んだ談判の場では使いモノにならぬ」と。

こんな“キレッキレ”だったからこそ、鎖国の眠りから覚めた小国の一地方官が、世界に冠たる大英帝国の不正を暴き、その領事を罷免に追い込み、公使に謝罪させる事が出来たのでしょう。

 

 平成もあと一週間。私個人の「平成史」を考えると__。

 偶然に導かれて「箱館奉行所」と出会い、小出奉行のような人を知ったことが、結構大きな位置を占めています。幕臣といえば「おぬしもワルよのう」「幕府の犬めが-----」などと思いがちだったけど、幕府の末端で懸命に日本を支え、滅ぶことでその一生を全うした人々がいたということ。


 同じようにそんな箱館奉行所を愛し、その存在と歴史を世に広めたいと願う人たちがいたおかげで、このホームページが成立し、ブログに勝手な駄文を書くことが出来ています。「森真沙子ファン倶楽部」は仮の姿、本当は「箱館奉行所ファン倶楽部」でしょうね。

 

そんなわけで、今後は時々こんな風に、箱館奉行所をもっといじってみたい。或いは、箱館奉行所シリーズで書き残したことを、ここで書けたら-----。珍しくそう殊勝に願う、平成の終わりの私です。

「令和」になっても、懲りずにお付き合いくださいね!

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コメント: 2
  • #1

    らら (木曜日, 11 11月 2021 11:12)

    こんにちは。
    こちらに掲載されている写真は小出大和守ではありません。
    これは小出大和守の腹心でロシアと一緒に交渉した石河駿河守です。
    小出はこちらです。
    https://image.jimcdn.com/app/cms/image/transf/dimension=4000x3000:format=jpg/path/s8f4fcb89216d53ac/image/i1f4a5b2974344333/version/1611834001/%E3%82%AD%E3%83%AC%E3%83%83%E3%82%AD%E3%83%AC.jpg

  • #2

    森真沙子ファン倶楽部 事務局(井田) (金曜日, 12 11月 2021 14:48)

    ご指摘ありがとうございます。
    調べてみたところ、ご指摘の通り、右上の写真は石河駿河守でした。
    その隣の写真が小出大和守です。
    今後、間違いのないように気をつけます。
    ありがとうございました。