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北海道にお見舞い

 

 考えて見ると昨年から、北海道は受難続きですね。去年の9月6日、胆振地方に震度7の地震が発生し、山が次々に崩れて三十人以上の命を奪ったことに驚きました。その辺りの山は、火山灰で出来てたんですね。それもさることながら、北海道全域が停電し“ブラックアウト”状態に陥ったのにも、びっくり。北海道電力はどうなってんだろうって-----。

 

 それから半年たたない今年の1月半ば、北海道を襲った連日の猛吹雪で、視界がゼロになる“ホワイトアウト”が報道されました。その犠牲となった男性は、帰宅途中に吹雪に見舞われ、周囲が何も見えない中で帰路を辿り、自宅前で亡くなっていたとのこと。気の毒過ぎるこのニュースに、私は、子どものころの忘れられない情景を、改めて思い出したのでした。

 

 まだ小樽に住んでいた、6、7歳のころの冬のこと。母は結核で郊外の保養所で療養しており、その


見舞いに、父と二つ上の姉と出かけたのです。バスは雪の原野を進み、降ろされたのはとある淋しいバス停。周囲は雪、雪、雪-----木一本も見えません。歩き出したけど、地嵐で吹き上がる雪と、横殴りに逆巻く雪で視界はゼロ。粉のように乾いて細かい雪が、目や鼻や口をみっしり塞いで、呼吸も出来ず目も開けられない----。これで死ぬのかな、と子ども心にも怖かった。

 「お父さん、息が出来ない」とついに立ち竦むと、「よし、お父さんに掴まれ。一列になって前の足跡を踏んでおいで、離れるな」と先頭に立った父の腰に姉が掴まり、その腰に私がしがみついた。父の踏んだ大きな足跡を一つ一つ辿って、夢中で進みました。それからどうやって保養所に辿り着いたのか、何も覚えていません。後年、映画『人間の条件』を観た時、梶(仲代達矢)が吹雪に巻かれて死ぬシーンに、「ああこれだ----」と思ったものです。

 

 ブラックアウトは、東日本大震災の時に経験しました。東京二十三区は大丈夫なのに、周囲の神奈川や千葉が一斉に停電。一晩で終わるかと思いきや、「計画停電」なるイヤーな停電が、一ヶ月以上も続いたんです。大病院や公共施設がある町を除き、一日の----確か午後から夜にかけての何時間かが、停電するわけ。その間、テレビもパソコンも音楽も、コンビニもスーパーも、玄関のピンポーンも駄目。家にいても何も出来ないから、電気がついてる隣り町まで行って買物し、我が町に一歩入ると墨を流したように真っ暗。あのイヤな感じって、ありません。ちょっとしたS F気分はあったけど、電気節約のため、平凡であまり取り柄のない町が犠牲になる-----そこがひどくないですか。といって「原発賛成」と言うわけにもいかないし-----。 

 

 というわけで遅巻きながら、「北海道」にお見舞い申し上げます。

 ちなみに「人間の条件」のあの場面は、北海道の“サロベツ原野”で撮影されたそうですね。それは北部に広がる大湿原地帯で、大阪市がすっぽり入る広さなんだそう。

 

このせち辛い時代、そんな異空間めいた原野を“平然”と内包する北海道って、やっぱり凄い!

 

◀サロベツ原野は、北海道の北部、宗谷地方に広がる。大阪市と同じぐらいの広さを持つ。