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止めてもらっていいですか?

   レジの行列に並んでバッグの中に財布を探していると、背後から声がかかりました。「詰めてもらっていいですか?」ハッと気づくと、私の前には五十センチ近い空白が出来ていて、背後に並んだお客は怒り目で、腹立たしげに私を睨んでいます。すぐ「スミマセン」と謝って列を詰め、世は事もなし----。

 

「詰めてください」ではなく、「詰めてもらっていいですか」。それが一般的になったのはいつ頃からだったか。少なくとも六、七年前までは「詰めてください」と言ってたような気がします。初めは耳障りに感じたけど、この「〜してもらっていいですか」って、コトを荒立てずに苦情を言うのに便利なんですね。

スーパー内で騒ぎ回る子供の母親に「静かにさせてもらっていいですか」。約束の時間によく遅れてくる人に「もう少し早く来てもらっていいですか」----。

 

 そうヘリ下る一方で、世の中にはえらくキレ易い人がいます。つい最近もレジの列で、すぐ前の中年婦人が、その前の六十前後の男性に「カゴをツンツンぶつけるのはやめろ!」と怒鳴られた。

 偶然なんだから、そのオジサンが、自分のカゴをずらせばいいだけでしょうに。女性は怯えた目で私を見たから、思わず囁いてやりました。「こういう人よくいるから、気にしない---」。 


 

    じつは私も、似た状況で「やめろ!」と怒鳴られたことがある。

その男性は三十前後のムキムキマンなのに、倍くらいのトシの蒲柳婦人(私のこと)に、二回ばかり間違ってカゴを接触されたことにキレて、眼を三角に怒らせ、空いたスーパーに玉声を轟かせたんですから。スミマセンの一言でお終いになる小事で男を下げる、「超近視眼的短腹男」が、最近増えてるような気がしませんか。もしかしてこんな煮詰まった人が増えたから、「〜してもらっていいですか」用語が、対抗策として広まったのかも-----?

まあいずれ、高度ストレス社会の産物には違いありません。

 

 ところで、前に書いた「レモンの威力」のブログのおかげか、四国は讃岐に住む友人から、自家栽培のレモンがはるばる送られて来ました。近所で買うノンケミカルの、虫喰いで、皮厚で、痩せたレモンと違い、艶やかな黄金色で、丸々太っています。「素晴らしいねえ」と御礼の電話を入れると、じつは収穫した六十個の大半は虫喰いで、その中から厳選した美レモンなんですと。

何と涙ぐましい。「そんなに無理しないでもらっていいですか-----」と思わず言いそうでした。