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「月下美人」咲いて七夕パーティー、されど…

 

 七夕の日、窓辺の「月下美人」の蕾が二つ、大きく膨らんでいるのを見つけました。葉っぱから出た蕾は、二、三日かけて熟成し、純白の大輪の花を咲かせます。夜に開き、咲いているのは一晩限り。

 

 そんな神秘の開花が、どうやら今夜らしい。それも二輪も同時に咲くなんて、と胸が躍りました。とてもいい香りがするんです。  

 今夜は七夕。我が家では、お客様を招いて酒盛りをする夜です。メンバーは若いころの仕事仲間で、私も含めて今年は六人。増えたり減ったりしながら、十四年、続いてきました。

 

毎年、笹の葉を飾って短冊を吊るし、何かしらテーマをたてて料理を作り、ざっくばらんに食べて呑むだけ。今年のテーマは「カレーパーティ」です。


「得意のカレーを持ち寄って!」と呼びかけると、三人の男性と二人の女性が手作りカレーを、一人の男性がお勧めのレトルトカレーを。ご飯はジャスミンライスにターメリックを加え、炊飯器で焚きました。

  大事にしすぎて棚の奥に忘れられていた「モエシャンドン」で乾杯し、シェリー1本、白ワイン2本、赤ワイン2本をあけ、日本酒、ウイスキー、食後酒のカシスにも手がつきました。

 

 辺りが暗くなってふと気がつくと、二輪の月下美人が咲いている! 皆は席を立ってしばし見とれ、それからはスマホの撮影会でした。

  それにしても、です。今回はカレーの持ち寄りだから、ホステス役の私はずいぶんラクできる、と思いこんでいたんだけど-----。当日の私は、オードブルを作って盛り合わせるぐらい。大トロ二切れ、ラタツーユ(夏野菜の煮込み)、イカめし(私の定番)、枝豆、茹でトウモロコシ一切れ、蒟蒻のピリ辛煮、沖縄土産に頂いたピーナツ豆腐-----。この七点を、それぞれに用意した塗りの大皿に色よく盛りつけ、“七夕七点盛り”として出しました。

 私の得意の「牛肉と野菜のごろごろカレー」は昨夜仕込んであり、当日はサラダを作るだけ。あとは洞が峠-----と目論んでましたが、何故だかいつもよりずいぶん忙しく、てんてこ舞い。

 

 おまけに私のカレー、昨日の試食では美味だったのに、今日はピリカラが見事に消えてる。後で分かったけど、犯人は「茄子」です。当日焼いて加えるべきところ、前日に三個も入れたので、一晩ですっかり辛みを吸い取り、寝ぼけた眠い味になってしまった。失敗の巻です-----。

 

 何やかや忙しく、帰りの電車の時間が迫ってきてバタバタ。あれとこれを持ってって-----と大騒動のあげく、潮が引いたように皆が去り-----。後には、皆に渡すはずだったお土産が忘れられ、七点盛りだったはずなのに、蒟蒻が冷蔵庫に残っていて-----。

 あげくに夏風邪らしく、咳込むやらぞくぞくするやら、嫌な予感。

 洗い物の山はほったらかして、シャワーを浴び、テレビで災害のニュースを少しだけ見て、バタンキュー。

 明け方に目覚め、ふと気になって月下美人をそっと覗いてみると、朝まだきの薄明の中で、二輪はもう首を垂れていた----。

 今年の七夕パーティは、かくて終わりました。