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トマトの皮


 いつ頃から、私、トマトの皮をむくようになったのだったか。何となく舌に残る皮が気になり始め、包丁で薄くむくうち、皮に十文字をいれて熱湯をくぐらせる“湯むき”を、覚えたのです。

 

 そんな初期のころ、姉が(今は故人)、岩手の姑が来てるからと、夕食に招いてくれたことがありました。行ってみると、二人はキッチンに立って、何か揉めていたようで、私の顔を見るや老齢のお姑が、「のう、マサコさん、トマトの皮ってむくもんだかね?」といかにも苦々しげに訊いたのです。「いえいえ、皮ごと食べる方が、美味しいですよ」と嫁姑の揉め事に加担したくない私は、とっさに迎合的なことを言いましたっけ。

 

 皮むきを姉に教えたのは、実はこの私なんですが。「でも皮をむけば、食べ易いみたいです。最近はレストランでもむいて出すようになり----云々」と、当たり障りなく“皮むき”の弁明をしたけど、なお納得がいかない姑は、渋い顔できっぱり言いました。「トマトは、丸ごと食べるもんだ。皮なんかむくもんでねェ」

 お気持、よく分かります。私や姉だって子供のころ、畑に実ったトマトを、皮ごとかぶりついていたんだから。その採れたての味が忘れられず、今も変わらず愛してます。今やリコピンブームですしね。 でも何ぶんにもそのトマトが、いつからか変わったのです。


 

 今は、皮がべトベトするような天然の脂も、青臭さも、濃い甘みもない。一瞬、口の中を混乱させるその野性味が失せるにつれ、舌の上に残る薄皮の、ビニールめいた存在感が増してきた----ってことでしょうか。しかしその皮をむき、塩とオリーブオイルを振りかけるだけで、トマトはやっぱり、充分に美味しいです。

 

 ところで最近テレビ見てたら、トマトの皮をつるりとむくには、

「冷凍すればいい」と言ってました。えっ、トマト、冷凍できるの?

 すぐ調べてみると、リコピンは熱に強いだけでなく、何と、冷凍にも強いことが証明されてるんですって。

 

 あのお姑様には悪いけど、こんなふうに少しづつ、何げに、食べ物も食べ方も変わっていくもんなんですね。思えば今の私、トウモロコシも、茹でなくなりました。サランラップかけてほぼ6〜7分(裏表3分づつ)チンすれば、簡単で美味しいです。アスパラガスや、ブロッコリー、カボチャなどは蒸して食べます。

 絶対に茹でなきゃダメなのは、そら豆と、枝豆かな。ポテトもチンが多いけど、あの美味いホクホク感は、茹でた方がずっといいみたい。

 ------と、世の中の進化におよそ貢献していない私でも、知らず知らずに、否応なく、流れには乗ってるんです。

 そのうちトマトは冷凍で売られるようになり、「昔はトマトを生で皮ごと食べたんだって」と言われる時代が来るのかも-----。