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桜に想うこと その2


 前回、今年の桜は白っぽいと書いたけど、あながち気のせいでもないらしく、桜の色には、冬の寒さが影響するそうですよ。また「京都桜狂躁曲」につけ加えたいのは、この季節の古都での宿泊困難です。 花見客で溢れ返っているところへ、外国人観光客が押しかける。法外な宿賃を払えば別ですが、手頃な部屋はなかなか取れないようで、幹事役の友人が困惑することしきり。でも何とか東寺の近くに取れたと聞いて、やれやれひと安心。前日の神戸はやや古風なホテルだったけど、それより安くて新しいという。

期待はしなかったですが、これが行ってみてムムム-----。

 

 1〜2人用の狭い部屋にあるのは、シングルに毛のはえた程度のセミダブルベッド一つと、床に、もう一人押し込むための蒲団が一組だけ。バストイレの他に、洗濯機と炊事設備が完備しています。これってもしかして、活力溢れるバックパッカー向きでは?

こちら、家事を束の間逃れてきた、息たえだえの活力減退組ですよ。

「こ、ここに“熟女” 三人が、泊まるわけ?」

と思わず叫びそうになったけど、しかし----と口チャック。幹事さんが苦労して探した部屋に、そんなこと言っちゃ罰が当ります。

 

「これも面白いじゃない」とすかさず、もう一人の友人がサポート。さすが熟女です。

でもここにパジャマもないのに気がついて、急に黙りこんじゃった私でした。それから木屋町に出て夜桜見物し、美味しいもの食べて、ほろ酔いで楽しくホテルに戻ったものの、そこでいよいよ問題に直面です。

  この狭いベッドに二人寝るわけですが、壁側には一体誰が----と。でも最もスリムなのは私だし、旅先では睡眠薬呑むので、寝ちゃえばそれまで、

ということで自ら“セミダブル壁側”を志願。

 

 十二時にはクスリ呑んで、しゃにむに寝入ってしまった-----。明け方、トイレに起きてギョッとしました。並んで寝ていた友人の顔がなぜか足元にあり、蹴飛ばしそうになったのです。このいかれポンチのベッドでは、オトナ二人が普通に肩を並べる幅はない。窮屈で眠れない彼女は逆さまになり、寝る空間を確保したのでしょう。白河夜舟の私は、ひたすら恐縮恐縮でした。で、翌日もまた桜日和。みな何ごともなかったように起き、機嫌よく出立で、ちなみに宿代はお一人様五千八百円でした。

 

 以上、古都での最新の、悲惨な宿泊体験ですが、まあ、このお代では、ごちゃごちゃ言うこともないか----って気もしたりして。関東に帰るのは私一人。新幹線でぱらぱら本をめくるうち、「花下遊楽図屏風」(狩野長信)が、折から東京国立博物館に展示されているのを知り、行きたくなりました(最終日は四月八日)。

 

 そこに描かれているのは、花の下で踊り狂う阿国の一座と、それを見る貴公子、婦人たち、居眠りする駕籠かき-----など、桃山時代の花見のひとこまです。平成版「花下遊楽図」はどうなるだろうと、暗い車窓を見てあれこれ想い巡らす、旅の終わりでした。